南太平洋に浮かぶ島国。
高級ホテルのスウィートルーム。

浴室の窓は全開に放たれており、大きな浴槽は窓に面し、そこから見えるのはコバルトブルーとエメラルドグリーンのオーシャンヴュー。

浴槽は溢れるほどの泡で満たされ、バラの花びらや見たこともないような異国の地の花が飾られ、エキゾティックな香りが部屋中に充満している。

その浴槽に入って泡まみれになっているのは、俺と彼女、キャメロン・ディアス。

俺は浴槽の縁に背をもたれ、大きく「大の字」になっている。
彼女（キャメロン・ディアス）は背中をぴったりと俺の胸に密着させて身体を俺に預けている。

浴槽のすぐ側、２人の手がちょうど届く位置には氷がぎっしり詰まったワインクーラーがあり、中にはルイ・ロデレールのシャンパーニュがギンギンに冷えている。

しかしシャンパン・グラスは１つだけ。

俺たち２人にはシャンパン・グラスは『１つ』で足りる。
同じグラスを使ってお互い交互に飲むからだ。

俺たちはいつもそうやって２人の時間を楽しむ。
これはお互いの愛を確かめ合う前戯。

泡の隙間から彼女の美しい肌が見え隠れし、時おり彼女が足を組み直すと、泡にまみれた長い足に目が釘付けになる。

俺が彼女の美貌に目を奪われているのと同じく、彼女もすでに俺の虜。

先ほどから、彼女は両腕を俺の首に巻き付け、絶え間ないキスを浴びせ続けている。

キャメロン・ディアスのキスのシャワーだ。

そんな妄想を想い描きながら、俺は自宅の冷蔵庫を開けました。

中身は次のとおり。

  • ボルヴィック 1.5リットル　×　2本
  • 缶ビール　× 3本
  • ブルーベリージャム　×　一個
  • バター　×　１個
  • 使い捨てコンタクトレンズ　×　1箱

シャンパーニュが、ありません。

無いなら無いで、それで良し。
俺は手元にあるもので最大限に今を楽しむ。

俺が手にしたのは、缶ビールとフルート型のシャンパン・グラス。

その２つを持って浴室へ向かいました。

現実は『独りで泡風呂で缶ビール』ですが、頭の中では『キャメロン・ディアスと泡風呂とシャンパン』です。

さて。
写真を撮っていないので、お見せすることができず非常に残念なのですが、重大な事件が起きました。

グラスを浴槽に落としました。

人生は、あらゆる教訓を人に与えてくれます。

2007年3月4日。 25:59時。原 一勢、28歳。

その日、その時、その瞬間。

俺は、人類が長い歴史の中で何度も何度も導き出してきた偉大な真理を、改めてかいま見ることができたのです。

その偉大な真理とは、すなわち。

「ビールは風呂あがりに飲め」

ご清聴ありがとうございました。